Welcome to my blog

私とエロゲとノベルゲーの書き処

Article page

『車輪の国、向日葵の少女』感想・レビュー: 人が持つ強さと弱さ 社会の在り方と過去現実とのギャップ そして人は決断し、成長する・・

Category - ★★★★☆
車輪の国、向日葵の少女

今回取り上げる「車輪の国、向日葵の少女」はこの系統の作品の中でも特に人気が高いです。
内容はまさにヒューマンドラマ、恋愛要素こそありますが社会の真理・人の精神を抉るようなドラマ性。

そこに惹かれ・影響を受けた人も多いと聞きました。

本作は基本的に一つの共通ルートがシナリオの大半を占めています。
大きな一本道の中で最終的に特定のヒロインのルートに移行してエンディングとなります。
なので1周目の時点である程度攻略したいキャラクターを決めておく事をお勧めします。





あらすじとしては、本作は車輪の国という日本とはまた違った国を舞台にしています。

そこは罪を犯した者に対してそれに関連付けた「義務」を押し付ける社会。
そしてそれを更生する存在である「特別高等人」という職業を持った人達が存在します。

車輪の国1

本作の主人公「森田賢一」は特別高等人になる事を志し、自身がかつて住んでいた故郷へ。
向日葵の咲くとある田舎町へ帰ってきます。

そこで義務を負ってしまっていた少女達に対し、最終試験の名のもと更生を行っていくというお話です。





~~~ここからネタバレあり~~~






ストーリーについて


・感情表現のリアルさ

今作は一言で言えば「決断」というワードが軸になった作品だったなと思いました。

シナリオ中、メインキャラの殆どが一つの決断をしなくてはならない場面に遭遇します。
そしてその過程の中に含まれる「怠惰」「優柔不断」「過去のトラウマからの恐怖」

この辺りの要素を含んだ人間のどす黒い感情・辛さという物をリアルに表現していたと思います。






車輪の国8

2章では「1日が12時間しかない」義務を持ったキャラクター三ツ廣さちの話が語られます。
時間を疎かに扱って来た結果、彼女が背負ってしまった義務。

それを更生する過程で、彼女は以前描いていた風景画を再び描くことに。

しかし彼女が積み重ねて来た「怠惰」、分かっていても動けない・行動したくない感情。
それが妹のまなとの別れを示していたとしても身体・気持ちがついていけない。

車輪の国9

3章では「大人になれない」義務を持ったキャラクター、大音灯花の話に。

母親からの命令に従う事しか出来なかった彼女ですが
育ての母親と、突然現れた実の両親の存在。
その2つを両天秤にかけられ、どちらと生活するか決断に苦しみます。

これまで重大な何かを決める事をしてこなかった少女。
その「優柔不断」さが他人に頼ろうとしてしまう。

車輪の国10

車輪の国11

4章では「恋愛できない」義務を持ったキャラクター、日向夏咲の話に。

天真爛漫だった少女の姿は過去に背負った冤罪によって大きく歪ませられました。
心無い周囲からいじめを受け他人に触れられる事に恐れを感じ、その明るさを封じ込めてしまう。

義務を無くそうする気力を無くしてしまった「過去のトラウマ」
そんな彼女に賢一は自分がかつての友人だった「ケン」だと告げます。
しかし彼女は以前と変わってしまった自分を恥じて涙を流します。






今作の登場人物は、作中これでもかと言うほど精神的な「弱さ」を見せてくれます。

それは客観的に観てとても好ましい姿ではなく、読み手次第で不快な気持ちを抱く可能性が高いです。
特に2章から4章はそれが顕著に表れています。

義務という設定を切り口にした現代社会で人が抱えるどうしようもない悩みや問題。
それらをストーリーに落とし込んでいる文章は見事としか言えませんでした。






・法月将臣というキャラクターの存在

車輪の国12

物語のキーマンとも言うべき存在だった法月のとっつぁんは、特別高等人で主人公の上司にあたります。

彼は主人公やヒロインに対して社会の有り様・真理を冷徹にぶつけてくる存在です。
機械的な人間と思わせながらも自分の主観的な感情を交えた物言いでその腹黒さも見せつけてくれました。




「いわれたことしかできない人間を三流。いわれたことを上手にできる人間で、ようやく二流。森田はいつになったら一流になるんだ?」
「人生は、上がるか下がるか。現状維持などない。なぜなら、自分が成長しなくても時間だけは過ぎていくからだ。良く覚えておけ・・・・・ 管理とは、成長させることだ 。現状を維持することではない」
「お前らはそうやって、すぐ、わかりやすい悪に飛びつく。いつでも誰かに責任を取ってもらおうとする。 国が、資格が、こんな特許が、親が、信頼する友人がこういったから・・・すぐ、安心し、思考を停止する。そのくせ、裏切られたときには、豚のようにわめき散らす。」




車輪の国という設定を体現したかのようなキャラクターです。
しかし架空の社会のみならず、現代社会にも通じる名言が多く一際目立った個性の持ち主です。
彼を切っ掛けに展開が急変する事も珍しくはなく、いい意味で物語を引っ張ってくれた存在でした。




・弱い人から強い人へ

人は心が折れそうな辛い経験をした時、それを糧に更に強い心を手に入れる事が出来る。
車輪の国では追いつめられたヒロイン達が最終的に一つの決断をし、「強さ」を手に入れます。






車輪の国12


さちは自暴自棄になるほど追い詰められながらも家を飛び出した妹のまなにその心を動かされます。
しかしさちの怠惰の積み重ねから完成しなかった絵をまなは拒みました。

自分の好きなさちに真っ直ぐ絵を描き続けて欲しいから。
自分が居なくなってもさちは大丈夫だと心の底から信じているから。

さちはまなとの別れを認め、絵を描き続ける事を決断しました。
これまでの怠惰な自分を捨て去り、再びまなに出会うために。



車輪の国13

灯花は育ての親である京子が隠していた過去の罪を知ります。
京子はその時のトラウマから錯乱し、灯花に対して罵倒を繰り返します。

しかし灯花はそんな京子の全てを許します。
そして育ての親・実の両親のどちらも「選ばない」という選択をする事にしました。

虐待を受けていた過去、母親が抱えていた罪の意識、複雑な家族関係
様々な事実と義務に翻弄されていた少女が初めて何かを選択する事が出来たのです。




車輪の国14

待ち焦がれていた健との再会したものの、改めて自分の背負ってる義務を重さを痛感した夏咲。
もう一つの心の拠り所だった両親の訃報も重なり彼女は追い詰められます。

しかし健は特別高等人としての掟を破り彼女を抱きかかえます。
それがどのような結果になるかを知っていても。
少年時代に彼女からもらった優しさを返すために。

その事実を法月に嗅ぎ付けられ健は覚悟を決めます。
しかし夏咲はそんな健の手を取り、満面の笑顔で健に対する愛情を宣言します。
収容所に連れていかれる事が分かっていても、法月に過去の記憶を責め立てられようと。

健との再会によって夏咲は昔の自分を取り戻す事が出来ました。





過去に何があろうと、人は変わる事が出来る。それをバネにして前を向くことが出来る。
決断する事によって成長出来る事をヒロイン達の物語から語っていた気がしました。






・車輪の国への反抗を描いた5章

ここまでのシナリオで描いていた成長物語から一転、車輪の国という物の在り方に問いかける内容となった5章。
なんといってもそれを引き立てていたのが5章で登場するヒロイン、「樋口璃々子」の存在でしょう。

車輪の国4

所謂叙述トリックと言うべき演出ですが、冒頭から賢一があたかもプレイヤーに対して「あんたも」と発言していた内容はずっと傍に居た実の姉に対する物でした。

彼女はこの世界における極刑「この世に存在を認められない義務」を背負っています。

彼女とは触れる事も、会話をする事も出来ません。
コミュニケーションを取る事自体が他者の極刑に繋がるため、例え傍に居たとしてもそれを認識してはいけないのです。
生活するためには特別高等人からの保護を受けるしかない。

我々の常識とは違った車輪の国の社会という設定だからこそ成立する登場シーン。
今作の見せ場はまさにここだと思います。
彼女の登場と共に「5章 車輪の国」というサブタイトルが出る演出は中々熱かったですね。






法月に捕えられた夏咲の公開処刑を阻止するために行動する賢一達。
その見物人は当然街の住人な訳ですが、ここで彼らの過去が断片的に語られています。

賢一の父親樋口三郎の存在を切っ掛けに起こった内乱の結果、住人達に刻み込まれた爪痕。
その後7年の歳月によって社会の在り様に飲み込まれてしまい卑屈に生きる事を選んでいった事を。

車輪の国15


公開処刑を控えた所に樋口三郎の娘である瑠璃子は彼らに語ります。
車輪の国という社会が抱えている闇の部分を、国家の罪を。
今自分達が置かれてる状況に対して、明確に意味を持てているのかと。
内乱によって犠牲になった人達の想いをその親族達へと。

「みなさんに生きて欲しいと、私は思います。望んだのは、生きる幸せを得ることなのです。決して生かされることではないのです」

人それぞれが自分の中の「個」を確立して生きていく事の必要性を説いていたシーンではないかなと思います。
生きる事の幸せを得るために。







その後は賢一と法月の一騎打ちになります。
正直これで終わるのかな・・?と思っていたのだけど

車輪の国16


法月が7年もの時間を隠していた左足の負傷というブラフにしてやられてしまいます。
確かに賢一を拾ったのは法月で、賢一にとっては父親の仇になります。
そのためにいざという時の対策としてこのブラフを張っていたと。
恐ろしい慎重さとしか言えないですね・・ここまでやるか普通と。

その後賢一達に対して法月の拷問シーンが始まりますが
人間の心理的弱みを熟知している手捌きで賢一達を苦しめていきます。

しかしここまでのシナリオで苦悩を乗り越えて来たヒロイン達。
心を折られそうになる法月の詰問にも耐えて賢一がなんとかしてくれると信じます。
成長した彼女達の姿をしっかりと描いていたと思います。

そして賢一は・・・










車輪の国17

法月同様に長い時間隠していたクスリをやっていたというブラフで反撃。
賢一もいつか法月と戦う機会が来ると踏んでいたのでしょうか。
作中でもクスリを吸う場面は幾度もありましたがそれもこのための伏線でした。

森田賢一が法月将臣を一時でも超える事が出来た場面ですね。
決していい関係とは言えない2人でしたが互いを知り尽くしていたからこその駆け引きは見所でした。




ここからマイナスな感想です。



・やや尻すぼみしたエンディング

個人的にちょっとなぁ・・と感じた部分です。
ラストの脱出劇は賢一の成長を描いていたのでとても良かったと思います。

ただその後の法月がメモリを渡す場面ですが、ここまでの法月のイメージからすればやや剥離した行動に感じられました。
ヒロイン別のEDでも彼に関して「街を去った」という事実しか語られていません。

車輪の国18


結局彼の真意はどこにあったのでしょう。
樋口三郎とは旧知の仲であったであろう事が作中語られてはいましたが。
そして彼もまた政府によって飼い慣らされてしまった人間であろう事も。
今回のレビューはFDの悠久の少年少女を未見の上で書いていますがそこで判明するのでしょうか。

5章の内容とEDの内容がちょっと離れてしまった感じもしますね。
車輪の国というスケールの大きい設定とEDのこじんまりとした内容を比べてやや違和感がありました。
瑠璃子ENDでは唯一政治の世界に入ってそれを少しずつ良くしていくといった内容になってましたが。



・賢一の不安定な描写

賢一が樋口健として生活していた頃の弱弱しい性格は過去のエピソードにもありましたね。
そして夏咲は今の賢一の姿は無理をしているように感じると発言しています。

森田賢一としての性格が全てとは言わなくても、ある程度作られた物ではないかと思います。

彼の性格の根っこはあくまでも樋口健じゃないかなと。
夏咲に対して早々に「なっちゃん」と昔のあだ名で呼んでいた事
姉の瑠璃子に対する感情の吐露はそれが反映されていた気がします。

それはそれとして構わないんですが、特別高等人の候補生としての賢一は一応優秀なキャラクターのはず。
5章のブラフの描写はその設定が生きていたかと思いますが。

しかし3章では京子の過去の罪を追及する場面を明らかにしくじっていました。
結果的には灯花のお陰で無事に事を終えた訳ですが。
ただでさえ灯花と賢一は過去の接点がありません。
更生に支障が出る要素が入る余地が他のヒロインよりも無いんですよね。

この辺のブレというか、2章がさちの時間を調節して最後に絵を描く時間を長く持たせる等の工夫をしていた描写もあってちょっと違和感を感じた部分ではありました。
個人的にはもう少し切れ者としての演出をしていた方が、ラストのブラフもより効果的に見せる事が出来たのではないかなと思っています。




・3章の構成について

実の父親からの手紙の下りを挟んだ理由がちょっと不透明というか必要だったかなと。
最後の法月の意味深発言もありましたが、灯花ENDでは至極真っ当な家族という表現でしたので。
ラストの灯花の行動もそれまでの悩み具合からはちょっと急な心境の変化だったかなと。

京子が中々表情の硬いキャラクターだったので若干ミステリー的な要素もあり、そこまで道中ダレる事は無く読むことは出来ました。






好きなシーン・キャラクター


好きなシーンは瑠璃子の登場も勿論好きなんですが
個人的には夏咲に賢一が素性を告白する場面ですね。

車輪の国19

車輪の国20

初めて出会った場所で同じ台詞を口にする演出が良かったなと思います。
夏咲が義務を背負ってしまってからの変化もより分かりやすく描けていたので。






好きなキャラクターは瑠璃子です。
本格的な登場こそ遅かったもののこういうお姉さんキャラはやはり好み・・w
ちょこちょこコミカルな一面も見せてくれたので5章ではなんとも頼もしい味方だなぁと感じました。

車輪の国21


男性キャラでは法月や磯野がいますが、どっちも好きとまではいかなかったかなぁ。

法月が人気ある理由も分かるんですけどね、この辺は悠久を終えたらまた変わるかもしれません。
内容は厳しくとも数々の名言、どれも素晴らしかったです。






まとめ


義務の設定や数々の伏線等、どれもよく考えられていたシナリオだったなと思います。

好きな章の順番としては2章>5章>4章>3章でしょうか。
(1章は顔見せ程度なので除外)

考えさせられた事も多く、読み応えは凄くありました。
ただ個人的には締めの弱さも含めてあと一歩物足りない感もあって
「限りなく神作に近いけど良作」といった判定で。すいません。

89点



関連記事

Category - ★★★★☆

あかべぇそふとつぅ

0 Comments

Post a comment