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『車輪の国、悠久の少年少女』感想・レビュー:大事な事は決断する事よりも決断した後何を成すかにある

Category - ★★★★☆
車輪の国悠久1

『車輪の国、向日葵の少女』のFDとして発売された本作。

前作で強烈な個性を放っていたキャラクター「法月将臣」の過去と本編後の姿を描いている法月編。
向日葵の少女で登場した各ヒロイン達とのアフターストーリーを描いたヒロイン編。
他にも前作の冒頭で登場後、僅か数ワードで物語から去ってしまったキャラクター「南雲えり」のショートストーリー等が収録されています。

ヒロイン編は法月との戦いから前作の各ヒロインENDへと繋がる平和な日常を描いていますが、前作に見られたヒューマンドラマとしての要素はほぼ皆無と言っていい内容なので実質おまけと言っていいかなと思います。





今作の目玉はやはり法月編でしょう。

前作で明かされなかった法月将臣というキャラクターの真意について。
彼が如何なる経緯にして特別高等人となって森田賢一の前に立ちはだかる事になったのか。
賢一達との戦いの後に街を去った彼の行方とは。

前作で描かれた物語の補完となる部分は勿論。
実質的に車輪の国の物語の完結編と言っていい内容になっています。
今回のレビューは基本的にこの法月編の内容を重点に置いて書いていこうと思います。





森田賢一の最終試験の終了後の話、法月将臣はある罪人が処理される報告を受けて昔の出来事を思い出す。

舞台は前作と同じ向日葵の咲く田舎町、彼がまだ、「阿久津将臣」と名乗っていた若き時代。
当時の彼は特別高等人の最終試験へと臨むためにそこへ到着します。

車輪の国悠久2

そこで出会った通称『私生活がない義務』を負う少女・「雑賀みぃな」。
彼女との出会い、それが阿久津将臣の物語の始まり。
不屈の野心を胸に抱いた彼は、次第に車輪の国へと呑まれていきます。






~~~ここからネタバレあり~~~






ストーリーについて


・車輪のように回り続ける既視感のある物語

一つの物語の過去の話を描くという事は、読み手にとってはその後の未来を把握してる事に繋がります。
前作をプレイした方からすれば、本作が最終的にどういう着地点を迎えるかある程度分かっているのではないでしょうか。

その上で物語を作る関係で重要になるのが、どれだけそのエピソードに説得力を持たせられるかだと思います。
過去にこれだけの経験をしたから今の行動に繋がっているのだと。
そのためには納得のいくだけの理由付けが必要になります。

車輪の国悠久7

今作で初登場した特別高等人の「法月アリィ」という女性ですが

彼女は後の法月将臣のイメージをそのまま体現したような人物です。
その手腕はまさに、後の将臣が森田賢一へした事に酷似しています。

最初から将臣とみぃなが惹かれあう事を確信していた事。
そしていずれ自身へ反逆しようとするであろう事を読んでいました。
これは前作の5章で将臣が読んでいた賢一が夏咲を取り戻すためにした行動の過程そのものです。






車輪の国悠久8

アリィは常に相手を先読みし、将臣を自分の術中に陥れます。
これも後に将臣が賢一に対してブラフを張り続けた策と同様です。
その後やはり前作と同じ地下牢獄へ閉じ込めてからの拷問が始まります。

ここで描かれているのは、前作の5章をそのままなぞったような既視感のある物語です。
ただ同じ内容を描いているという訳ではなく、この一連の流れが同じである事こそが車輪の国の本質なのではないでしょうか。
アリィから将臣へ、将臣から賢一へ、酷似した物語を見せる事で車輪の国の在り様が延々と続いていってるのだと。

法月アリィは特別高等人の最終試験の実態について語ります。
「特別高等人の最終試験は、試験とは名ばかりの矯正プログラムなのだ。人の気持ちを煽り、弄ぶ、死のプログラム」
彼女もまた将臣同様、車輪の国に呑まれた人間だった事が作中語られていました。
耐え難い屈辱を受けながらも友人を助けるために服従する道を選んだ事を。






車輪の国悠久10

みぃなは同じ境遇を経験したアリィが何故これだけの事を出来るのか、疑問の声を掛けますが。

「お前たちの気持ちがわかるからこそ、同じ目に遭わせてやりたくなるのではないか?」
「先輩が後輩に、偉そうに同じ苦労を味あわせてやるからこそ、組織が成り立つのだ。」

今の社会にも通じる部分がある、悲しい台詞だと思います。

しかし作中には三郎が以前出会った頃の法月アリィの印象が僅かに語られていました、とても話のわかる人だと。
もしかしたら彼女自身、特別高等人としての仮面を被って将臣達に接していたのかもしれません。
あるいは試験を行うまでの姿が仮面を被っていた彼女だったのかもしれませんが。
真意は不明ですが、私は前者の可能性を信じたいですね。






・決断する事ではなく、決断した後何をするか。

前作の向日葵の少女は決断する事で成長出来た人達の物語でした。

しかし本作の阿久津将臣は決断する事によって自身の心に蓋をしてしまいます。
現実では向日葵の少女のように決断する事が全て何もかも上手くいく訳ではありません。
そのような物語はハッピーエンドであるから許されるのです。

本作で描かれていたのは憎々しくも辛い現実です。






車輪の国悠久3

苦渋の決断という言葉があります。
愛する者を助けるために心を閉ざした事。
車輪の国に呑み込まれながらも自分の個を捨て去った将臣の選択肢は正しかったのでしょうか。

あの状況で三郎の提案した山越えという選択肢。
仮に私が将臣と同じ状況に置かれたとします。
半ば瀕死の状況だったみぃなの負担を考えればその選択肢は余りに無理難題と捉えて将臣と同じ選択をした気がします。

彼は後の彼女が辿る強制収容所へ送られてしまう未来を予感していました。
例え命を救ったとしても将臣は彼女と並んで歩くことはできず、未来までは救えないと。






車輪の国悠久4

それでも愛する人が生きるための決断をした将臣の選択を誰が責められるのでしょうか。
作中では三郎も仲間を殺した国家に従う事は出来ない確固たる意志を持ってるからこそ将臣の決断を否定していましたが。

しかしそれは彼が将臣ではないから。

「お前も辛いだろうけど俺も辛いんだ」と言う事は簡単です。
しかし仮に山越えの選択肢を選んで結果的にみぃなの命が絶たれてしまったとしたら。
将臣は確実に三郎を恨んだでしょう、三郎にはその責任を取る事は出来ないでしょう。





将臣にとっての理屈と三郎にとっての理屈、それが交わらないのは必然です。
人は結局自分の感情に従って行動する事を是とするのですから。
三郎は前に進むことを最良とし、将臣は後ろに下がることを最良の選択をした
これは避けられない事だったと思います。

ここまで作中に将臣は何度もアリィに対して反逆しようとする姿勢を示していました。
しかし、いずれの機会も三郎との意思が噛み合わなかった事やアリィの策に嵌った事で失敗しています。
そのような描写を積み重ねていた事が、最後の将臣の決断に重みと説得力を感じられる物になっていたと思います。






車輪の国悠久11

しかし将臣がその選択肢を選んでからの行動は余りにも弱かった。
特別高等人になり、再びみぃなの担当になれるだけの地位を築きながら彼女と向き合う事はしませんでした。

彼女に合わす顔はないと考え、問題を先延ばしにした事こそが彼の弱さだったのではないかと思います。
後ろに下がる決断をした後、立ち止まり続け前へ進む意思を示す事が出来なかったから。

雑賀みぃなが再犯をした事によって再び義務を背負った事ははっきり言ってしまえば彼女自身の責任です。
しかし仮に彼女の傍に将臣の存在があったとしたら?
特別高等人として再び傍に居る事が出来たらまた違った未来があったのかもしれません。





後に将臣と三郎は特別高等人と国に対する反逆者という立場で再会します。
将臣は三郎の命を絶つ事になりましたが、三郎は死の間際に将臣へこう告げます。

「・・・おれは間違っていた、でも、お前も、間違っている。でも、それでも、すまない・・・。」

これは過去にみぃなを助けた決断は間違っていなかった。
しかしその後に彼女と向きあう事をしなかった将臣を責めていたのではないでしょうか。

しかし三郎も自分の信念を貫き続けたために将臣に今までそれを告げる事をしなかった。
あるいはあの時もっと早く将臣と共に法月リリィに反逆するべきだったのではないか。
だからこその謝罪だったのではないでしょうか・・。






・次の世代へと続く、もう一つの車輪

今作では赤ん坊の頃の賢一(=健)が登場します。
彼は三郎に拾われ、将臣とみぃなを含めた3人によって名前を付けられます。
実の親ではありませんが、確かに健の事を息子だと考えていたのです。

苦渋の決断をした将臣は、赤ん坊の健に対して告げます。
「では、お前がやってみろ……愚かな父を、打ち負かしてみるがいい」

その後将臣は健を森田賢一として育て上げ、前作の物語へと繋がっていきます。
彼は法月アリィが自分に対して行った事を意図的に真似る事で、賢一に絶望的な状況を与えていました。

しかし、それでも真っ直ぐに向かって進み続けてくれる事を期待したのではないでしょうか。
自身を打ち負かし、阿久津将臣が出来なかった事を成し遂げて貰いたかったから。






事実、将臣は前作で一度は賢一を解放してから夏咲を救出に来るよう仕向けています。
本来ならあそこで賢一を捕らえて拷問を与える方が自然ですが、それでは法月アリィの再現とはならない。

当時と同じ状況を作り出し、法月将臣の過去そのものを超えてもらうための解放だったのではないでしょうか。
そして父を超えて真っ直ぐ進んできた彼の成長を見届けた結果、メモリを渡したのだと・・。

これは人として許される事ではありませんが、南雲えりの殺害から彼は一貫として一つの目標に向かって行動していたように感じられました。





車輪の国悠久6

ラストへ続く車内の場面で将臣は賢一に一本の電話をします。
彼らしからぬとりとめもない会話から異常を察知した賢一は将臣に「まさか、お困りですか?」と告げます。
賢一は彼がある意味で父親だった事実を知りません。

しかしその会話はまさに父と息子のそれだったのではないでしょうか。
-電話を持つ指が、かすかに震えた- 私は読んでて涙腺が緩みそうになりました。
健の仲間達を傷つけ、罠に陥れた自分を気遣ってくれている事に対して、将臣の心境はとても嬉しい物だったと思います。

将臣は母親に会わせてやると告げて電話を切り、強制収容所へ。
処理される事が決まった母親の雑賀みぃなの元へ赴きます。
「母に会わせてやろう。必ず、な」
彼女に再会して自身の所業を償い、今度こそ救うために。






車輪の国悠久5

そこには年老いた法月アリィの姿がありました、彼女は将臣の行動もまたも読んでいたのです。
アリィはやはり過去の出来事と同じように将臣を諭すように決断を求めます。
しかし息子の健との戦いから彼は一つの結論に達していました。

「人の道は、けっきょく輪のようにつながっているのです」

特別高等人になった自分がするべき事は戻るのではなく進む事なのだと。
次の世代への道を切り開くのだと。それを親友が語り、その息子が身を持って証明してくれたのだから。
ここで初めて三郎の事を「親友」と表現した将臣の台詞がまたいいんですよね・・。
そして健の事をあくまでも三郎の息子だと、自分にはそれを名乗る資格はもう無いという意志も感じられました。

過去の出来事の繰り返す事だけではなく、親から子へと自分の意志を脈々と伝えていく事。
それこそが車輪の国のもう一つの姿だったのではないでしょうか。






そして最後に彼は法月将臣としてではなく、「阿久津将臣」として法月アリィに言い放ちます。

━━そこをどけ豚共…
私はこれから、最愛の人に、会いに行かねばならんのだ━━


「The final test of a leader is that he leaves behind in other men the conviction and the will to carry on」
(特別高等人になるため彼に課された最後の試験。それは、後に続く者に揺るぎない信念とやり遂げる意志(の大切さ)を伝えることだった)
将臣が辿り着いた特別高等人のとしての在り方を指した一文だと思います。

ここで物語が終わってしまった事で将臣のその後は不明のままとなりました。
恐らくは射殺されたのではないかと予想されます。
しかし息子を育て上げて一つの結論に達する事が出来た彼の心境は晴れやかな物だったと私は思います。
締めの場面としては完璧でしょう。






好きなシーン キャラクター


好きなシーンはやはり将臣が賢一に電話をかける場面ですね。
前作であれだけ悪役としての存在感が強いキャラだったので、過去編を描く事でどのような印象を得るのかなと思いましたが。
そんな彼が父親としての一面を見せて弱弱しい姿を微かに見せてくれたあの場面は素晴らしい物だったと思います。

好きなキャラクターもやはり将臣で。作中三郎も語っていましたが彼は不器用なんですよね、基本的に。

車輪の国悠久12

みぃなとの恋愛で自分の感情を正確に把握出来ない将臣は一度彼女を突き放しています。
その後結ばれたと思いきや拷問の途中で彼女に対し疑心暗鬼を抱き、最終的にそれを後悔する。
初めて恋を経験した彼の感情の揺れ動きは前作同様とてもリアルに表現されていたと思います。






まとめ


法月編の完成度は正直本編の内容よりも好きです。
それ以外のお話はそのキャラクターを好きな人向けな感じで今回は内容を端折らせて頂きましたが。
(お世辞にも評価がよろしくない内容だったりでこちらは点数付けには反映していません・・・)

ただ物語上の都合とは言え中盤から終盤にかけて前作と同じようなストーリーが展開されるので純粋に読み手としては先が見える展開だったかなと。それを言ってしまえば身も蓋もない話ですが。
正直FDとしてではなく、本編攻略後にこのお話を読んでみたかったというのが正直な感想です。
(移植版では本編にこの法月編も含まれているのでより完成度が高まっています。)

前作と合わせれば間違いなく神作だったと思います。
向日葵の少女をプレイして楽しめた方には是非ともおすすめしたい作品でした。

89点
(車輪の国、向日葵の少女と合わせれば92点)




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